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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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9/23「象の病院」

東南アジアのタイ・チェンマイでのこと。
9歳の少女が父親の運転するクルマで町を走っていました。
交差点で、1頭の象が横たわっている姿がクルマの窓から見えました。
そのそばには壊れたトラック。象が人間と共存しているタイでは、しばしば町を歩く象がクルマと衝突事故を起こすことがあります。

トラックにひかれて横たわった象は苦しそうですが、周りの人は何の手当もしません。
それどころか、駆けつけた警官が象の急所に向けて銃を撃ったのです。
その光景を間近に見てびっくりした少女は父親に尋ねます。
「ねえ、お父さん。どうして怪我をした象さんを、私みたいに病院に連れていかないの?」
少女は幼い頃、多発性硬化症という難病にかかり、病院に通う日々が続いていました。
この少女の問いに父親が答えます。
「象はね、体が大きいから運ぶことができないんだよ。象を治療する病院だってありゃしない。だから、ああやって安楽死させるんだよ」
それを聞いた少女の心には、怒りにも似た悲しみが募るばかりでした。

それから時は流れて2007年。ミャンマーとの国境近くの森で地雷を踏んで左前足を吹き飛ばされた象に、義足が着けられました。
象の義足は世界初のことで、その象の治療に当たったのも、世界で初めてというチェンマイ郊外にある象の病院。
この病院の代表者は、多発性硬化症のために杖を使いながら歩くソライダ・サルワダさんという女性―あのときの9歳の少女だったのです。