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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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3/18「鉄の生き物」

九州には現役で元気に走っている蒸気機関車― SLが1台あります。
それは肥薩線を走る「SL人吉」。
通称「ハチロク」と呼ばれる機関車は大正11年生まれ。
およそ334万キロ走り続けて昭和50年に引退したSLです。
このハチロクが再び復活した裏には、一人の鉄道マンの存在がありました。

昭和50年に引退した後、ハチロクは肥薩線の矢岳(やたけ)駅の構内に留めて展示されることになりました。
これに反対したのが得田徹(とくだとおる)さん。
町と掛け合って屋根付きの展示館を実現させました。
矢岳駅前に住む得田さんは元機関士。かつてこのハチロクを何度も運転しており、自分と同じく引退したSLが雨ざらしで錆び付いていくことに耐えられなかったのです。

得田さんは毎日展示館に通っては、ハチロクに、丹念に油を注して手入れし、磨き上げました。
もう二度と走ることがない、ただの鉄の塊となったハチロクに、なぜそんな無駄なことをするのか、と訝る人もいました。
でも得田さんはいつも、「機関車は鉄でできている生き物だから」と元機関士らしい言葉で答え、動かないハチロクに毎日かいがいしく世話を続けていきました。

それから13年後。九州で観光SL列車の計画が持ち上がり、調査の結果、得田さんの手で大切に保存されていたハチロクが、現役復帰が可能なSLとして注目され、再び甦ることになったのです。

ハチロクはこの春も、まるで生き物の心臓のような鼓動を響かせながら、元気に肥薩線を走っています。