3/6 「世代をつなぐ民話」
長崎県東彼杵町(ひがしそのぎちょう)に、「音琴(ねごと)」という地名があります。
音楽の「音」に楽器の「琴」という字を書きますが、
この地名は昔、天女が舞い降りて琴を弾いたという民話に由来します。
琴の音色が大きく聞こえたところは「大音琴(おおねごと)」、
小さく聞こえたところは「小音琴(こねごと)」と呼ばれています。
こうした民話を子どもたちに伝えたいと立ち上がったのは、
読み語りボランティア「クジラっ子」の代表・岸川となみさんです。
岸川さんは、ただ民話を読み聞かせるのではなく、2メートルもあるカーテンに背景を描いたり、
BGMや効果音をつけたりして寸劇に仕上げます。
はじめは近所だけで披露していたのですが、8年前から町の小中学校全6校の恒例行事になっています。
また「うちの地区の話はないの?」と民話に興味を持つ子どもたちの好奇心は、
岸川さんたちが次の作品を作る意欲につながり、歴史民俗資料館の書物を調べたり、
歴史に詳しい先生に尋ねたりしながら、毎年一つずつ新しい作品を作り上げます。
岸川さんが驚いたのは、子どもではなくお年寄りの施設を慰問したとき。
60代から70代の方の中には地域に伝わる民話を知らない人が意外と多いのです。
「私たちは戦争のさなかに育ったから、民話を聞くゆとりがなかったのよ」とわけを話すお年寄りたち。
涙を流しながら当時を振り返る方もいるそうです。
そのことを知った岸川さんは、
「民話はふるさとへの想いをつなぐもの。ぜひいまからでも娘さんやお孫さんに語り継いでほしい」と話します。
次の作品は、大村藩と佐賀藩の合戦の舞台になった場所に伝わるお話。
岸川さんたちの手によって、また一つ、町の宝物が生まれようとしています。
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