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提供:創価学会
FM福岡(土)14:55-15:00
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2/17 放送分 「ぎこちない思いやり」

1984年2月、「俺は山では絶対死なないぞ」と言い残してマッキンリー単独登頂に向かった冒険家・植村直己さん。
その言葉を信じて夫の帰りを待った妻・公子(きみこ)さん。
二人はその10年前に結婚しました。

二人でいっしょに暮らすようになった日、夫の大きなトランクを開けてみると、エベレストの石とか、アフリカのどこかの国の置物など、公子さんから見るとわけのわからないガラクタばかりが出てきました。
それらひとつひとつについて嬉しそうに説明する夫を見て、彼女は「ああ、この人は宝島ごっこをやってる少年なんだ。私はそんな男性と結婚したんだ」と思ったそうです。
結婚生活10年のうち、いっしょに暮らしたのは5年ほど。彼女にとって残りの5年は、宝島ごっこに出かけた夫が帰ってくるのを待ち続ける、切ない生活でした。

ところが、家にいるときの夫は、冒険の疲れを取っているのか、徹底的にごろごろしていました。
公子さんが2階で書道の仕事をしていると、彼は1階でじっとテレビを見ていますが、それでもときどきのっそり2階に上がってきて、「公ちゃん、どう、元気?」と声をかけます。
そして「じゃあ」と下に降りていきますが、またしばらくすると所在なげに上がってきて、「どう、元気?」
おかしな夫婦関係に見えますが、そこには切ない思いをさせている妻に対する夫の、ぎこちなくも深い思いやりを感じます。
そんな結婚生活の10年目。植村直己さんはマッキンリーで消息を断ちました。
「冒険は生きて帰ることにあると言ってたのに、だらしないじゃないの」
これは公子さんが記者会見で帰らぬ夫に向かって語った言葉です。